交通事故被害者はどのような損害賠償を請求することができるのか?
交通事故にあった被害者は相手方(加害者側)に損害賠償の請求ができます。誰にどれだけの金額を請求すればよいのか?
損害賠償の項目は四つに分けられる。
損害には
積極損害(病院などの怪我の治療費や入院費、雑費、通院の交通費、義足、車椅子など現実に出費する損害)
消極損害(交通事故にあわなければ手に入ったと予想される将来の収入減や働けなくなったことによる収入減・損失)
慰謝料(交通事故によって被害者が受けた肉体的・精神的な苦痛に対する慰めるためのお金)
物損(壊されたものに対する被害)
があります。
物損事故の場合は慰謝料(精神的苦痛)は認められません。しかし修理費・評価損・代車使用料等の損害賠償は請求できます。
保険会社が賠償額の計算と提示を行います。
これらの費目の損害額を合計し、過失割合により減額を行い、請求額を出します。実際には、保険会社が計算しますが、請求できる費目が抜けていないか、金額が妥当なのか確認が必要となります。
人身事故の損害賠償の算定方法
消極損害(治療費・介護費用・改造費など)+ 積極損害(休業損害・逸失利益)+ 慰謝料+その他(車・服装などの物損)
例えば
被害者
年齢 | 34歳男子会社員 |
入院 | 300日 |
通院 | 300日(実通院95日) |
月収入 | 40万円 |
後遺障害等級 | 第9級10号 |
積極損害
治療費関係費で負傷して治療のためにかかった費用です。
入通院治療費 | 210万円(A) |
付添介護料 | 160万円(B) |
被害者妻の付添(6,000円×40日) | 24万円(C) |
入院雑費 | 42万円(D) |
積極損害合計=A+B+C+D
210万円+160万円+24万円+42万円=436万円(E)
消極損害(逸失利益)
事故によって後遺症のため労働能力が減少し、将来の収入の減少をきたす損害を逸失利益といいます。
後遺障害の逸失利益の算出方法は、原則として基礎収入額に労働能力の喪失割合を乗じ、これに就労可能年数を応じた喪失期間に対しするライプニッツ係数によって算出します。
休業損害(休業期間11か月)40万円×11か月 | 440万円(F) |
労働能力喪失減損による逸失利益 | |
労働能力喪失率 | 35% |
労働能力喪失期間 | 67歳までの33年間 |
中間利息控除(ライプニッツ係数) | 16.0025 |
中間利息控除 40万円×12か月×0.35×16.0025=2,688万4,200円(G)
慰謝料
前項で慰謝料は、交通事故によって被害者が受けた肉体的・精神的な苦痛に対する慰めるためのお金と説明しました。その評価をしようとすると金銭面において議論がなされるわけです。そのため、交通事故による慰謝料の算定については,一定の基準が設けられており,当該基準に基づき慰謝料が計算されます。
当該基準には、3種類の基準があります。
慰謝料の3つの基準とは
- 自動車損害賠償責任(自賠責)基準
最低限の慰謝料基準 - 自動車対人賠償保険(任意保険)支払い基準
任意保険による慰謝料基準 - 裁判所(弁護士)基準
裁判所の判例を基に作成し最も高額の基準
裁判所(弁護士)基準は、裁判所の判例などを基に、弁護士が損害賠償請求をする際に目安となるよう作成された基準であり、慰謝料に関する3つの基準の中で高めになっています。被害者側はこの基準によって損害賠償請求することとになりますが、金額はあくまでも請求の目安であって、裁判もこの金額で認められるわけではないことを理解しておいて下さい。なお、裁判所(弁護士)基準には、「青い本」と「赤い本」があります。
赤い本とは、公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している損害賠償額算定基準 上巻(基準編)
青い本とは、公益法人 日弁連交通事故相談センターが発行している交通事故損害賠償額算定基準 実務運用と解説
があります。ここでは、赤い本で慰謝料の計算を説明します。ここで注意するのが、傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎とし、別表Ⅰを用い、むち打ち症で他覚症状がない場合は、別表Ⅱの2種類がありますので、注意が必要です。入通院の慰謝料算定基礎の目安とします。
入通院慰謝料 | 330万円(H) |
後遺障害慰謝料 | 690万円(I) |
入通院の計算方法は下記表で参照下さい。
損害賠償額合計=E+F+G+H+I=4,584万4,200円
(注)被害者に過失があれば過失相殺されます。
誰が・誰に損害賠償の請求を行うか
損害賠償の請求ができるのは被害者で、加害者側に対して損害賠償を請求することができます。損害賠償は、積極傷害と消極傷害、慰謝料があります。
損害賠償の請求相手は事故を起こした加害者となりますが、実際には自賠責保険の適用がありますし、ほとんどの場合任意保険にも加入していますので、保険金によって支払いされることとなります。
自賠責保険では、傷害、後遺障害、死亡事故について、それぞれ保険会社の上限が決まっており、自賠責保険の保険金額を超えた損害賠償額は、加害者個人の負担または任意保険により支払われることとなります。
保険会社との損害賠償の示談交渉は保険会社の提案に注意
加害者の車両には、自動車保険の加入している場合が多く、損害賠償額の示談交渉する担当者は加害者の保険会社となります。示談が成立すれば、加害者の保険会社が直接支払いします。
その額は、各保険会社の独自の支払い規定により、その額は裁判所(弁護士)基準より大きく異なり低額ですので、検討する必要があります。提示額に納得いかない場合や決裂した場合は、交通事故の相談機関や弁護士に相談したが良いケースがありますので、一度弁護士に相談してみましょう。
人身事故の損害賠償
人身事故の場合では、積極損害・消極損害と慰謝料があります。消極損害は、休業損害や逸失利益のように、被害者が交通事故にあわなければ手に入ったと予想される利益で、事故のために失ったお金をいいます。
積極損害とは、病院などのケガの治療費や入院費、入院雑費、通院時の交通費など被害者側がその事故のために実際に支払ったお金をいいます。
慰謝料とは、事故によって被害者が受けた肉体的・精神的な苦痛を慰めるためのお金をいいます。
積極損害
費用について | 内容について | 請求について |
治療費関係費 | 負傷して治療のためにかかった費用 | 必要かつ相当額な実費全額 ただし、過剰治療や高額治療などについては否定されることもあります。 |
入院付添費 | 症状により付添いが必要と見られる場合や、医師の指示で必要性を認めた場合 | 職業付添人の場合は実費全額 近親者付添人の場合は1日6,500円請求できる。 |
入院雑費 | 入院中必要な雑費(テレビやラジオの賃借料・寝具・パジャマ・紙おむつの購入費など) | 1日につき1,500円程度請求できる。 |
交通費 | 治療のために要した交通費(電車やバス) タクシー利用については妥当と判断された場合のみ |
電車やバスの実費は請求できる。 |
宿泊費 | 治療のため特定の医師に通院する場合、通院ができず、近くに宿泊しなければならない場合 | 妥当な範囲の宿泊費が認められる場合がある。 |
生徒・児童の学校費 | 学生や児童が事故により負傷し、休学したため留年し二重の授業料を支払った場合、補習授業料など | 妥当な範囲で認められる。 |
弁護士費用 | 交通事故訴訟における弁護士費用は一部認められる。 | 裁判所が判決の中で認める損害賠償額の10%程度認められる。 |
将来介護費 | 医師の指示または症状の程度により必要があれば | 損害として認められる。
但し、具体的看護の状況により、増減する。 |
装具・器具等の購入 | 義歯・義眼・義手・義足・その他 | 必要があれば認める。相当期間で交換の必要があれば将来の費用も原則全額認める。 |
家屋・自動車の改造費 | 被害者の受傷の内容、後遺症の程度、内容を具体的に検討 | 必要性が認められれば相当額を認める。 浴室・トイレ・出入口・自動車の改造などが認められる。 |
消極損害
費用について | 内容について | 請求について |
休業損害 | 交通事故によって怪我をし、仕事を休んだため得られなかった賃金や収入のことで、損害として請求することができる。 |
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逸失利益 | 事故によって後遺症のため労働能力が減少し、将来の収入の減少をきたす損害を逸失利益といいます。 | 後遺障害の逸失利益の算出方法は、原則として基礎収入額に労働能力の喪失割合を乗じ、これに就労可能年数を応じた喪失期間に対しするライプニッツ係数によって算出する。 |
慰謝料
費用について | 内容について | 請求について |
傷害事故の慰謝料 | 交通事故によって肉体的・精神的苦痛を受けたことに対する損害を金銭に評価した損害賠償です。(物損事故では認められておりません) |
|
後遺症の労働能力喪失率と慰謝料
介護要する後遺障害
等級 | 労働能力喪失率 |
第1級 | 100/100 |
第2級 | 100/100 |
後遺障害の慰謝料
等級 | 労働能力喪失率 | 自賠責保険基準 | 裁判所基準 |
第1級 | 100/100 | 1,100万円 | 2,800万円 |
第2級 | 100/100 | 958万円 | 2,370万円 |
第3級 | 100/100 | 829万円 | 1,990万円 |
第4級 | 92/100 | 712万円 | 1,670万円 |
第5級 | 79/100 | 599万円 | 1,400万円 |
第6級 | 67/100 | 498万円 | 1,180万円 |
第7級 | 56/100 | 409万円 | 1,000万円 |
第8級 | 45/100 | 324万円 | 830万円 |
第9級 | 35/100 | 245万円 | 690万円 |
第10級 | 27/100 | 187万円 | 550万円 |
第11級 | 20/100 | 135万円 | 420万円 |
第12級 | 14/100 | 93万円 | 290万円 |
第13級 | 9/100 | 57万円 | 180万円 |
第14級 | 5/100 | 32万円 | 110万円 |
「赤い本より」
自賠責基準は、交通事故被害者に最小限の補償をするために設けられた慰謝料の基準です。
裁判所基準は、裁判所の判例などを基に、弁護士が損害賠償請求をする際に目安となるよう作成された基準であり、慰謝料に関する3つの基準の中で高めになっています。金額はあくまでも請求の目安で、裁判もこの金額で認められるわけではないことを理解しておいて下さい。
自賠責基準と裁判所基準では、差額が445万円もあります。
ライプニッツ係数(年金現価表)
労働能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数 |
25 | 14.0939 |
26 | 14.3752 |
27 | 14.6430 |
28 | 14.8981 |
29 | 15.1411 |
30 | 15.3725 |
31 | 15.5928 |
32 | 15.8027 |
33 | 16.0025 |
34 | 16.1929 |
35 | 16.3742 |
入通院の慰謝料
例では入院300日と通院300日で、むち打ち症で他覚症状ある例として別表Ⅰを使用し、入院300日(10か月)が横線と通院300日(10か月)縦線が交差する金額が目安となります。
(1)傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎とし、別表Ⅰを使用する。通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とする。
(2)傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額する。
(3)むち打ち症で他覚症状がない場合は、入通院期間を別表Ⅱとして使用する。通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。
「赤い本より」
まとめ
いかがでしたか?慰謝料については、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。
保険会社は、費用負担が少ない保険会社独自の任意保険基準で示談金の提案がありますので、金額が妥当なのか?初めての事故などで、分からないと思います。こんな場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士相談費用が無料の掲載事務所を多く掲載していますのでご安心下さい。まずは、弁護士に相談しましょう!